オルタナ恵比寿 Vol.2

街のために自分たちが存在する。
恵比寿に進出した人気店「Atelier LaLa」の”街”への想いとは?【後編】

September 30th,2023
現状に疑問を抱き、より良くするための活動を行っている人・場・企業にインタビュー取材をするシリーズ企画「オルタナ恵比寿」。Vol.2では、恵比寿ガーデンプレイス内に昨年オープンしたレストラン「Atelier LaLa」の女将・北奥京子さんをインタビュー。

北奥さんは、東京都豊島区を中心に、15店舗14業態を展開されている株式会社グリップセカンドの全店統括マネージャー。「本当のサービスとは何か?」を追求するオーナーの金子信也さんとともに多くのファンを持つ人気レストランを手がけてこられました。また、全国60以上の生産者とリレーションを構築しながら 地域産業や地域活性に貢献するほか、食材廃棄率1%達成のための社内体制の構築、 女性活躍によるダイバーシティの実現など、 飲食事業を通じて様々な課題解決にも取り組まれています。

北奥さんが飲食業界でどのような想いやチャレンジ精神をもって、人々の心をつかむレストランをつくりあげてきたのか、今の時代に求められる場づくりや飲食業界が抱える課題解決方法などを伺います。
Text : Izumi Kohno  Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI)  Edit & Design : BAUM LTD.
Text : Izumi Kohno  Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI)  Edit & Design : BAUM LTD.

女性の活躍も応援。仕事と子育ての両立の負担をなくしながら、働く喜びを感じてほしい

『Atelier LaLa』(恵比寿ガーデンプレイス内)は2022年11月にオープンされましたが、どんなお客様が多い印象でしょうか?

ランチタイムはオフィスワーカーの方が多い印象です。夜は近所にお住まいの方やご家族でふらりと立ち寄ってくださる方が多いですね。スタッフが気軽に声をかけているのを見ると、何度も来てくださっているのだな、と分かります。

『Atelier LaLa』(アトリエ ララ)は恵比寿ガーデンプレイス センタープラザ地下1Fにある。

このお店のコンセプトは、“とある映画の主人公「LaLa」のアトリエ”なのですが、実際、女性のお客様が非常に多くいらっしゃいます。それと同時に、スタッフに女性が多いのも特徴です。

女性が来て居心地が良いかどうか、は常に考えます。テーブルの上の生花のフラワーアレンジメントも、毎週フラワーアーティストに来ていただいて変えていますし、いろいろなお客様、いろいろな用途でご利用いただきたいので、テーブルセッティングにもこだわっています。お店の中央に配した大きなテーブルも、みんなで囲んでほしいという想いで設置しています。食事をするのって、楽しいですよね。その雰囲気づくりを大事にしています。

LaLaのアトリエがコンセプトであることから、インテリアはオシャレな雑貨やオブジェなどが並ぶ。食卓の生花も美しい。

スタッフの方も、女性が多いように感じるのですが、どうでしょうか?

実はグリップセカンドのお店全体を見ても、女性スタッフの割合は多いんです。女性スタッフだけで運営している店舗も2店舗あります。

産休明けで戻ってきてくれた女性もいます。もともと私も子育てをしながら働いていたので、応援したいという気持ちもあるんですよね。仕事も子育ても、で大変ですが、できるだけ両立の負担をなくしてあげたいと思っています。週に1回でも2回でも、働くことの楽しさを感じてもらいたいですよね。誰かのためになることをして「ありがとう」と言われるって、嬉しいものです。

今でこそ、飲食業界での経験が豊富なスタッフも多くいますが、グリップセカンドを始めたころは、未経験のスタッフもたくさん採用しました。スキルよりも、人として、どんな人間と働きたいかとういうことを意識していましたね。

私もそうですが、サービススタッフの場合は特に、お客様から教えていただくことが多いんですよね。もちろん、経験は積み重なるものですが、目の前のお客様に何ができるか、考えられるスタッフが求められます。その中で、お客様に励まされたり、応援されたり、ときには叱られたり。そうやって、お客様とともに歩んでいるのだと思います。多くのスタッフは、未経験からスタートし、成長をし、現在各店舗のマネージャーを任されていたりします。

また、ほとんどの店舗でオープンキッチンにしているのですが、お客様がどんな顔をして食事をしているのかを知っているか知らないかって、大きな違いがあると思います。キッチン、サービス、役割はそれぞれですが、みんながお客様に向き合っている、という部分はぶれていないと思います。

全76席の広々とした空間は大人数でもカップルでも家族でも、使い勝手の良さが魅力。

サステナブルな取り組みも、自然な流れからスタート

規格外の果物にも新しい価値を見出していらっしゃいますよね。詳しく教えてください。

宮崎のきんかんと日向夏を作っている農家さんを訪ねたときに、木に実ったきんかんをAランク、Bランクって、分けていらっしゃったんですよね。そして、規格外のBランクのものを「持っていっていいよ」と仰るんです。1本の同じ木に実っていて、同じ手間をかけて育てていても、日の当たり具合だとかさまざまな理由で、見た目が少し悪いものがどうしても出てくるんですよね。これを何とかできないかと思ったわけです。

そこで、まず、規格外のきんかんを買い取らせていただいたんです。それをビールに漬け込んで、きんかんビールを作りました。翌年は同じく規格外の日向夏を買い取らせていただき、日向夏ビールを作りました。その美味しいこと。もちろん、お客様に大好評でした。お客様にも喜んでいただけるし、農家さんにも喜んでいただける、こんなに嬉しいことはないですよね。

私たちはレストランなので、加工ができます。その技術を使って、皆さんに喜んでいただこうというのが始まりです。それまでも、規格外の野菜などを使っていましたが、日向夏ビールをきっかけに、本格的に規格外果物を使ったジェラートやドーナツのアイシング、ジャムなどを作るようになりました。

店頭では『RACINES Boulangerie & Bistro』で毎朝焼き上げるパンや自社ラボで揚げたドーナツなども購入できる。

コロナ禍でも、自分たちができることは何かを考え、結果喜ばれる存在に

飲食店として、長く続けていく秘訣はなんでしょうか。コロナ禍で大変だったと思いますが、どのように乗り切られたのでしょうか?

コロナ禍で大変ではなかったお店なんて、存在しないと思います。ただ、私たちの会社は、「変化を楽しむ」という言葉を大切にしているのですが、柔軟性やチャレンジ精神があったように思います。

感染拡大防止でレストランを閉めざるをえなかったとき、池袋のショップ『Racines Bread & Salad』で、朝から晩までお客様のためになるものを販売しようと、全店舗のスタッフが交代でお惣菜やお弁当を作ったり、パスタのソースを作って冷凍販売したり、私たちが仕入れている無農薬の野菜を安価で販売したりしました。それが、街の人たちにとても感謝されたんです。レストランだからできること、私たちだからできることを見出せたのが、お店を存続できた要因のように感じています。そのときお客様に感謝され、応援されて、そして今度は、お店を開けたときにはお客様が戻ってきてくださいました。みんなが苦しかった時期に、私たちができることをなんとか必死に頑張ってきたことが結果として、お客様が戻ってきてくださることにつながったのだと思います。

いろいろな業態のレストランを展開していることが強みとなり、とにかくお客様に喜んでもらえる料理をお出ししようと試行錯誤しました。お客様目線に立ったとき、どんなものが求められているかを、みんなで常に考えていたように思います。

シグネチャーメニューの“季節のリースサラダ”は自家製ドレッシングとともに

働くスタッフにはどんどんチャレンジしてほしい。そして、たくさんのことをお客様から学んでほしい

自由に意見を出し合える雰囲気が会社全体にあるように思うのですが、スタッフの方に伝えていることなどありますか?

自分が体験したことはスタッフに積極的に共有するようにしています。そして、みんなもどんどんチャレンジしなさいと伝えています。失敗してもOK。リセットOK。という環境は作ってあげたいと思っています。

私自身、神楽坂のお店で様々なことを経験し、日々失敗し、悩み、リセットし、お客様に教えてもらい、そしてこうしたらお客様にありがとうって言っていただける、ということも分かりました。それを今に活かしているんです。

今後の展開で決まっていることがあれば教えてください。

2023年11月に麻布台ヒルズに出店が決まっています。麻布台ヒルズは、ひとつの街のような場所になるんですよね。オフィスがあって、住む場所があって、スクールがあって、ジムがあって、クリニックがあって。そこで働く人、住んでいる人に対して私たちがどんなことができるかということを考えていきたいと思っています。

最後に、恵比寿という街のイメージを教えてください。

温かい街だなと思います。昔から住んでいる方はそこに愛着を持っていらっしゃる方が多いですよね。私もこの場所で働くのが楽しくて、この街の方と過ごす時間を楽しみたいと思っています。会社帰りにふらっと立ち寄ってくださる方、何度も通ってくださる方など、たくさんいらっしゃいます。そういった方々との出会いを、これからも大切にしたいと思っています。

***

系列店のスタッフ同士が連携して常にお客様情報を交換することで、どのお店に行っても同じようなあたたかいサービスを受けられる。そんな心配りをはじめ、規格外の食材をビールやドーナツ、ジェラートにしてより多くのお客様に美味しく届ける工夫をするなど、細部にわたりファンの心を掴む努力を続けてきたグリップセカンド。これからの飲食店に求められる大切なヒントをたくさん伺えた気がします。麻布台ヒルズのお店は『RACINES』の集大成であり、フラッグシップ店舗にもなる予定とのこと。『Atelier LaLa』とともにぜひお立ち寄りください。

Atelier LaLa

営業時間:平日 10:00~19:00 / 定休日 日曜日
TEL : 03-6721-7150
東京都渋谷区恵比寿4-20-7
恵比寿ガーデンプレイス センタープラザ B1F

Lunch 11:00〜14:00(L.O. 14:00)
Café  14:00〜16:30(L.O. 16:00)
Dinner 18:00〜22:00(L.O. 21:00)
Shop   11:00〜20:00
定休日 不定休(施設の休館日に準ずる)

Atelier LaLa WEBサイト

Profile
女将 北奥京子 Kyoko Kitaoku
2004年、「鼎(かなえ)」にて株式会社グリップセカンドでのキャリアをスタートする。その後、「GRIP」「Racines Boulangerie & Bistro」など複数の店舗において運営全般を担当した後、2010年より全店統括マネージャー「女将」に。現在は店舗運営における責任者として各店舗のマネジメントを統括するほか、人材育成や商品企画、新店舗の立ち上げなどにも従事。2020年にオープンした「4hours」は出店に際して業態監修を手がけた。また、女性目線を活かした商品企画開発を目的に社内プロジェクトを発足。女性マネージャーらとともに、契約農家の果実を使ったクラフトビールをマイクロブルワリーと共同開発、自社マイクロブルワリーを創設するなど、チャレンジングな取組を次々に仕掛けている。こうした活動を通じて、女性たちが活躍できる環境を多く作り出し、女性活躍による多様性ある企業カルチャーを創出することにも力を入れている。
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