オルタナ恵比寿 Vol.3

ファッションの発信基地・恵比寿から地球の未来を考える。循環型社会を生む服のリサイクルの仕組みとは?【前編】

March 8th,2024

現状に疑問を抱き、より良くするための活動を行っている人・場・企業にインタビュー取材をするシリーズ企画「オルタナ恵比寿」。第3回目は、恵比寿の街で、着なくなった服を回収・リサイクルした後に、再製品化することで循環させる仕組みをつくりあげているリアルショップ「BRING EBISU」を紹介。「BRING™」は「あらゆるものを循環させる」を理念として掲げている株式会社JEPLANが運営する衣類回収のリサイクルプラットフォームであり、アパレルブランドとしても展開されています。24年2月20日時点で200を超えるブランドが参加し、回収拠点は全国で4700(スポット開催含む)を超えていて使い終わった古着などを新たな資源として独自の仕組みと技術で新品とほぼ同等品質に再生するということを実現されています。また、30を超える自治体とも提携し、使用済みペットボトルについても同様の資源循環に取り組んでいます。現取締役会長の岩元美智彦さんが繊維事業者の営業職時代に、繊維業界の廃棄問題を課題として捉えていたことが立ち上げのきっかけだといいます。

前編では、現在NY証券取引所上場を目指し、ますます世界中の企業から注目を集める岩元氏に、どのような想いやチャレンジ精神をもって、リサイクル事業を進めてきたのか、リサイクルプラットフォーム「BRING™」とは一体どのような事業なのかを伺います。

Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.
Text : Izumi Khono Photo : Yuka Ikenoya (YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.

循環型社会を作ること、リサイクルの文化を作ることの重要性



株式会社JEPLAN 現取締役会長の岩元美智彦さん

岩元さんが「環境」に興味を持たれたきっかけを教えてください。


今から約30年前、1995年の容器包装リサイクル法の制定に携わっていたのですが、そこから、環境に興味を持ち始めました。日本では、年間数百万トンもの繊維ゴミが出ており、それらは焼却されたり埋め立てられたりしています。これをどうにかできないかと考えたのです。そして、自治体や市区町村などとのリサイクルの取り組みがスタートしました。

とはいえ、初めから順調だったわけではありません。最初は、すぐに循環型社会(天然資源の消費が抑制され、環境への負荷が低減された社会)ができるのではないかと思っていました。しかし、実際はそう簡単にはいきません。ペットボトルの回収についても、現在では回収率90%を超えていますが、30年前は、回収率が数%程度でした。回収率を高めていくとか、あるいは文化を作っていくというのは非常に時間がかかることなのだと実感しました。と同時に、もっとスピードを上げていく必要があると思いました。

回収率を上げると同時に考えるべきポイントが、リサイクル。今でもそうなのですが、ペットボトルからペットボトルにリサイクルされているのは、実際は20%強なのです。ご家庭でも、子どもたちも一緒になって、ペットボトルをリサイクルしようと取り組んでいらっしゃるかもしれません。きっとみんな、ペットボトルがペットボトルに生まれ変わっていると考えていますが、実はそうではないんです。集めることが目的ではなく、それが何になっているのかを表現していくことが大切ではないかと思います。それに必要なのが、テクノロジー。技術開発が欠かせないわけです。

モノは回収されたあと、どうなるのでしょうか?

ボトルtoボトル(*ペットボトルからペットボトルへのリサイクル)、あるいは服to服(*服から服へのリサイクル)は、簡単にできそうでできないものです。ケミカル技術を用いたリサイクルの技術を磨いていかなければならないのですが、そう考えると、今度は工場が必要になってくるわけです。そういった経緯もあり、私たちは現在、北九州に繊維リサイクルの工場を、神奈川県川崎市にはボトルリサイクルの工場を稼働させています。

持続的な資源循環を考えると、まずは国内での循環が重要になってきます。この資源循環で大事なことは、一度自分の手元を離れてもそれがどうなっていくのかを実感できるようにすべきだと思いました。国内での循環が実現できれば、天然資源の消費量の抑制やCO2の排出量抑制にもつながります。これまでは技術と社会的な仕組みがなかったので、技術の開発、そして工場を含めた仕組みづくりを進めてきて現状があります。

店舗では、服ポリエステル繊維100%の使用済み衣類をケミカルリサイクルして、新しいポリエステル樹脂、そして糸へと再生するまでの行程を、実際の各工程の素材を見ながら理解することができる。

技術開発について詳しく教えてください。


地球は118種類の元素でできていますよね。地上にあるものが燃やされ、温暖化になるのですが、燃えない金、銀、銅、鉄などは再生技術があり、市場もあります。一方で、ペットボトルの物理的リサイクルを考えると、集めて、洗って、削って、きれいな部分のみ使うと、使用用途が限られてくるのです。そこで、化学的リサイクル、つまり、元素や分子レベルで見る必要があります。有機化合物は炭素と水素と酸素でできているので、これを小さな単位に戻していき、再度くっつけると結果同じものができるという考え方です。

こうした化学的リサイクルを進めることが循環型社会につながり、なるべく地下資源を使わず、地上にある資源を用いることで(戦争の一つの原因となっている地下資源の奪い合いを防ぎ)平和な社会を作っていきましょう、という、テクノロジーと思想が大切なのです。

石油由来の原料と比較して、CO2排出量47%削減につながる再生PET樹脂で作られたペットボトルのお水。何度も循環できるこのペットボトルはオリジナルボトル制作も可能。

楽しくなければ人の心は動かない。「正しいは楽しい」を伝えたい


現在、数多くの企業と協力し、使用済み衣類の回収ボックスを設置されていますが、集める仕組みについて教えてください。

工場には海外からも視察に来られますが、技術だけではなく集める仕組みも注目されています。約20年前、創業当時に「ものをどこでリサイクルしたいですか」というアンケートを取りました。その結果1番多かったのは「商品を買ったお店」でした。そのほかの回答では、学校、駅、イベント、役所、とありました。2〜30年前は役所にしかリサイクル回収ボックスはなかったのです。でも、みんな役所にわざわざリサイクル品を持っていかないのですよね。だから我々はいろいろなお店に回収ボックスを置いてもらうようお願いして回ったのです。アパレルショップもあれば総合スーパーもあれば、あらゆる場所で。スポーツイベントで設置してもらったりもします。

使用済み衣類を回収する「BRING」の回収ボックス。良品計画やイオンリテール、丸井グループなど参加企業店頭にも回収ボックスが設けられ、ポリエステル製以外の衣料品も回収して循環させている。

大切なのは、早くこの循環型社会を作っていこうということ。その際に重要なのは、消費者の行動変容です。意識や行動を変えるのには時間がかかります。それは、実際にリサイクルを体験してもらって変わるものだと思います。たとえば使用済みの衣類は、回収された後に我々の工場で分別されて、素材に応じてリユース・リサイクルされます。ポリエステル繊維100%のものについては工場で再生ポリエステルへとリサイクルされますが、その他のものについては協力企業で資源として活用されます。我々だけが動いても、社会は変えられません。こうした仕組み作りや文化を作ることこそ、大切なのです。

加えて、循環のため、使用済み製品を回収するためには消費者の協力が欠かせません。消費者の協力を得るためには意識や行動の変化が必要で、自分ごととして捉えてもらうこと、さらには「正しいは楽しい」と思ってもらうことが必要不可欠です。

回収され、リサイクルされたものはどのように生まれ変わるのでしょうか?


テクノロジーによって化学的リサイクルが可能にはなったのですが、では回収されたものが実際にどう生まれ変わったの? という疑問が出ます。そこで立ち上げたのが、「BRING™」です。BRING™は、回収した洋服のなかからポリエステル繊維100%のものを自社工場で再生ポリエステルとして原料に再生し、再び服にまで何度も循環させるサーキュラーエコノミーを実現しているブランドです。リアルショップとして2021年に恵比寿に「BRING EBISU」をオープンさせました。

恵比寿西一丁目の五叉路近くにある「BRING EBISU」


リサイクルと聞くと、品質が悪いのではないか、着心地が良くないのでは、などと感じる方も多いと思いますが、そんなことはないと証明しているのがこのブランドです。下着や靴下などは、着心地はもちろん、吸汗速乾や臭いを防ぐ効果などが高く評価され、登山ウェアやスポーツウェアとしても愛用されるようになりました。

商品を見ていただくと分かるのですが、見た目も肌触りも、綿100%のような洋服が実はリサイクルのポリエステルでできているのです。リサイクルを全面に出しているわけではなく、着心地が良くて、機能性が高いという理由で着ていただいて、よくよく製品のことを知っていただくとリサイクルされた原料によって生まれた製品なのだと気付くというケースも多々あります。ファッションは楽しいものですから、その楽しさの中に循環型社会やリサイクルという文化が生まれることが大事なのです。

「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の「デロリアン」を使ったイベントを企画されたのですよね?

資源循環の文化を作りたくても、ただリサイクルを呼びかけただけでは人はなかなか興味を持ってくれません。そこで考えたのが、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』に登場する「デロリアン」を使ったイベントでした。みんなの使わなくなった洋服でデロリアンを走らせようという企画では、リサイクル用に洋服を持参したらデロリアンと写真が撮れるという形で回収を呼び掛けたら、多くの人が協力くださり、多くの洋服が集まり、撮影は1時間以上の行列となりました。

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場したデロリアン。2015年のイベントではゴミを動力にする映画の設定同様に、回収衣類をリサイクルした燃料を用いて車を走らせて話題に。


自動車型タイムマシン「デロリアン」は、映画の中でバナナの皮や缶飲料の残り、さらには缶そのものを燃料として走っていました。映画が公開された当時(1985年~1990年に公開)、「将来、ゴミで車が動く時代が来るに違いない!」と、心を揺さぶられたものです。

そこで、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」公開30周年を祝うイベントで、映画の中で主人公がタイムスリップした2015年10月21日16時29分に合わせて、いらなくなった洋服でデロリアンを動かすことを企画し、成功させたのです。私はもちろん、多くの映画ファンの心に残る瞬間だったに違いありません。と同時に、みんながリサイクルについても考えるきっかけになったはずです。

恵比寿にリアルショップ「BRING EBISU」を出店された理由は?


やはり、渋谷、代官山、恵比寿といったこのエリアは東京の中でも感度の高い方が集まる場所ですし、迷うことはありませんでしたね。特にこの恵比寿西エリアは閑静な雰囲気でありながらアパレルショップも多く、人通りが結構あるんです。ふらりと立ち寄ってくださる方もたくさんいて、店員と会話をしながらゆっくりと「BRING™」の取り組みを知ってもらうことができて、「こういう考え方や、こういう持続可能な社会の実現方法があるんだ」と、一人一人が感じてくれるきっかけの場になればと願っています。





***

昨年、雑誌『Forbes Japan』の表紙を飾った岩元さん。今、JEPLANには投資だけでなく、国内外から多くの工場誘致や提携話が舞い込んでいると耳にしていたこともあり、多忙のなかインタビューを受けていただけることになりとても光栄でした。実際にお話ししてみるととても気さくなお人柄で、世界初のチャレンジングな取り組みを続けてこられたのも、すべて楽しみながらアクションを起こされてきたことが伝わってきました。サステナブルという言葉が浸透してきた昨今ですが、ペットボトルやポリエステルといった「地上資源」を半永久的に循環させるという発想は目から鱗でした。さらには再生された服や下着がとてもスタイリッシュで機能的であるという点が、「リサイクル=ワクワク」に繋がって、未来が楽しみにもなりました。後編は「BRING EBISU」でどんなアイテムを手に入れることができるのか、店長の宮武さんにもお話を伺います。

ファッションの発信基地・恵比寿から地球の未来を考える。循環型社会を生む服のリサイクルの仕組みとは?【後編】記事はこちら

「BRING」

住所:東京都渋谷区恵比寿西2-9-8 大澤ビル1F
営業時間:水・木・金・土 12:00~19:00(祝日および店舗が別途定める日は休業日)
お問い合わせ:03-4400-1251(営業時間のみ)

https://bring.org/


Profile
岩元美智彦

1964年鹿児島県生まれ。88年北九州大学(現北九州市立大学)卒業後、繊維専門商社に就職。営業職に従事する。95年「容器包装リサイクル法」の制定を機に繊維リサイクルに深く携わる。2007年に現社長の髙尾正樹と共同で日本環境設計(現・JEPLAN)を創業。15年アショカ・フェローに選出。16年より取締役執行役員会長。

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