「恵比寿ガーデンプレイス」の隣に位置し、地域の人たちに長く親しまれてきた「恵比寿南一公園」。この小さな街のよりどころが、2022年9月1日、渋谷区では北谷公園に続いて2例目となるPark-PFI制度※を活用した公園として、リニューアルオープンします。
このプロジェクトを統括するのは、100年以上にわたり恵比寿の街で事業を行ってきたサッポログループの一つ、サッポロ不動産開発株式会社。1994年、恵比寿工場の跡地に複合都市のパイオニアとして、恵比寿ガーデンプレイスを開発し、ハード・ソフトの両面から街の魅力を高める取り組みを行ってきました。そして今、恵比寿ガーデンプレイスでは一大リニューアルが進行中。恵比寿の街は大きく変化しようとしています。
そんな過渡期にある恵比寿の街にふさわしい公園の形とはなんだろう。これまでの公園のあり方を問い直し、導き出された答えが、子どもたちが自由に遊び、チャレンジできる「プレーパーク」を中心にしながらも、子どもだけでなく、多様な人々が集い、街と人がつながりを広げていく「ネットワーク型」の公園でした。
地域の人たちに愛されてきた記憶を引き継ぎながら、さらに場の魅力を高めていくプロセスにおいて、どのような工夫やアイデアが生まれたのでしょうか。企画・運営を担うサッポロ不動産開発株式会社の高木顕一郎さんと、企画から公園全体の設計・監理までを担当したUDS株式会社の関谷明洋さん、小泉智史さんに、今回のプロジェクトのコンセプトや具体的なプラン、そして、これからの公園のあり方についての考えを伺いました。前編・後編にてじっくりお届けします。
※都市公園の魅力と利便性の向上を図るために、公園の整備を行う民間事業者を公募により選定する制度。都市公園に民間の資金やノウハウを活用した新たな整備・管理手法として注目されている。
Text & Edit : Atsumi Nakazato Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Nakazato
Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)
Edit & Design : BAUM LTD.
変化を遂げる恵比寿の街にふさわしい
公園のかたちとは?
今回のリニューアルは、渋谷区の「恵比寿南一公園改良整備事業」によるものです。“子どもの自発性や創造性を育む「プレーパーク」の設置”に加え、“単なる公園整備のみならず、周辺地域全体の価値向上や地域の交流を促す整備・運営”という、従来の公園のあり方を問い直すような公募内容をどのように受け止めましたか?
高木 恵比寿の街とともに歩み、成長を遂げてきた当社には、さまざまな事業を通して「恵比寿の街の魅力を高めていきたい」という思いが根底にあります。その中で、未来を担う子どもたちとその親世代の方々をターゲットにした魅力的な場づくりを行っていこうと社内で検討が進められていました。
というのも、恵比寿は商業性の高いエリアのように思われるかもしれませんが、駅から少し離れると住宅街が連続し、小さなお子さんがいるご家庭もあります。お子さんと親御さんがともに楽しめる場をつくることが、恵比寿の未来につながるのではないかという思いがありました。
今回の渋谷区の公募内容は、そんな私たちの街づくりの方向性とうまく合致していたこと、また恵比寿ガーデンプレイスが大きくリニューアルするタイミングでもあったことから、恵比寿の街の魅力を一体的に高めるチャンスだと感じました。

関谷 これまでに渋谷区で行政と民間が連携して整備された公園には、MIYASHITA PARKと北谷公園がありますが、これらは子どもの遊び場というよりも、大人が利用することを想定して商業寄りに開発されたものでした。
恵比寿南一公園はプレーパークを設けることが条件だったこともあり、それらに比べて、“土っぽいな”というのが第一印象でしたね。子どもが自由に遊べる“本来の公園”を基本にしたいという渋谷区の公募内容を、新鮮に感じました。
小泉 街区公園と呼ばれる小さな規模の公園は、収益性を高めるのが難しいこともあって、Park-PFI制度の対象になりにくいと思うんですが、そんな小さな公園にあえて注目するというのは新しいですよね。
景観的につくり込まれた恵比寿ガーデンプレイスの隣に、プレーパークのある土っぽい公園をつくることは一見違和感があるように捉えられるかもしれませんが、街全体にいろんな顔が生まれるところに、多様な人を受け入れる公共空間らしさを感じました。
プロポーザルにあたって、公園をどのように解釈し、「多様なニーズを受け入れるネットワーク型公園」というコンセプトに至ったのでしょうか。
高木 街の小さな公園には、当たり前のように滑り台やブランコなどの遊具があり、それによって遊び方が限定されているような状況でした。これに対して、公園をハードとソフトの両面から見直すことで、恵比寿の街の魅力を高めることはできないかと考えたんです。
そうしてプレーパークという特色を持ちながらも、使い方を限定せず、幅広い世代の人たちがつながり、新たな活動やプロジェクトが生まれるような場を目指した、「ネットワーク型公園」というコンセプトにたどり着きました。
関谷 これまでPark-PFI制度を利用した公園は、既存を変更してつくり直すというリセット感が強いものも多かったのですが、恵比寿南一公園では、既存のものをできるだけ残して、それらをうまく活かしながら、プレーパークを主とした新たなコンテンツとつなげて広げていくことが重視されました。
例えば、街の人たちに親しまれてきた公園内の桜並木や大きな樹木を残し、恵比寿ガーデンプレイス周辺の都市的な緑とつないで緑のネットワークをつくることや、恵比寿ガーデンプレイスのイベントと連携して、このエリアを一体的に盛り上げることなど、やりたいことを出し合いました。その中で、いろんな人やものがつながり、ネットワークを広げていく結節点にしたいという思いがまとまって、最終的にこのキーワードがあがってきましたよね。

高木 恵比寿南一公園は、普段から子どもたちが遊んでいるだけでなく、近隣のワーカーが休憩したり、病院のリハビリのコースに使われていたりと、地域の方々にさまざまな形で利用されていました。幅広く親しまれていたので、ネットワーク型公園にふさわしい場所でもあったんですよね。
恵比寿の街は、線路を挟んで西と東でエリアの特徴が違うんですが、東側に住んでいる方が「この公園があるなら西の方に行ってみよう」と、公園とガーデンプレイス一帯が街全体をつなぐきっかけになればいいなと思っています。
小泉 ここは小さな規模の公園だからこそ、地域の方々にすごく愛されていて。そんな記憶を残しながらも、恵比寿南一公園を知らない人たちが訪れたくなるような魅力ある空間をつくるために、今あるものをいかに残し、それらを活かしてどう新たな価値を与えるか、という両面を同時に考えていきました。
ネットワーク型公園として、恵比寿ガーデンプレイスはもちろん、渋谷区の他のプレーパークとも連携するなど、「ここだけで完結しない」ことも重視しています。

プレーパークを中心に、人や動物が集う
「多様性の拠点」に
リニューアル後の主要コンテンツとなるプレーパークについて、他のプレーパークとは違う、恵比寿南一公園ならではの特徴を教えてください。
小泉 公園の小さな規模感や住宅街が近い環境を踏まえて、初めてプレーパークを利用する子どもの目線を重視した「My Firstプレーパーク」として位置付けたところが大きな特徴で、年長から小学校低学年までを主な対象としています。
渋谷区初のプレーパークとして親しまれている渋谷はるのおがわプレーパークと連携し、心身の成長によって恵比寿南一公園では物足りなくなったお子さんはそちらに誘導するなど、プレーパーク間のネットワークを大事にしていきます。また、既存の樹木を最大限に活かすことで、都心にありながら本物の自然に触れられるプレーパークであることも特徴です。

プレーパークと融合する形で、公園内に新たな交流施設が設けられます。この施設にはどのような機能がありますか?
関谷 プレーパークで遊ぶお子さんの安全を確認しながら、親御さんがコーヒーを楽しむというシーンを想定して、1階のプレーパークを見渡せる位置にカフェを設けました。2階には、収益事業としてドッグサービスが行われる多目的スペースを設置しておりますが、そこでは、プレーパークと連動して、自然や遊びをテーマとしたイベントやワークショップ、子育てや食育をテーマにした講座などの実施も想定しており、地域をつなぐ拠点となります。
高木 カフェはペットの入店も可能で、お散歩に来た方が愛犬と一緒に時間を過ごすことができるというのも特徴です。交流ルームは、平日の利用が少ない時間帯はドッグトレーニングの場として利用できるほか、ペットの一時預かり所やトリミングサロンも併設します。
かねてより、恵比寿ガーデンプレイスや恵比寿の街中を見ていると犬を連れている方が多いと感じていました。そのため、ペットに関するサービスは恵比寿の街に必要な機能であると同時に、「子どもと動物をつなぐ場」としても機能するのではないかと思っています。

関谷 交流施設は「開かれた建物」となることを目指し、カフェは開口部を開け放つことで、プレーパークとの連続性を持たせ、子どもたちが生み出すにぎわいをよりダイレクトに感じられるようにしました。さらに、交流スペースやトリミングサロンにも大きな開口部を設け、公園を訪れた人や街を行き交う人たちが、この施設での日常を見て感じることができるよう配慮しています。
交流施設にはさまざまな機能を持たせていますが、「子どもたちが自由にチャレンジできる環境を整える」という一番の目的を果たすために、建築面積は最小限にとどめました。建物のボリュームをコンパクトに抑えた分、プレーパークの面積を広くとったり、小さなお子さんでも安心して遊べる芝生スペースを設けたり、ボール遊びができる既存の屋外多目的スペースを残したりと、屋外空間を充実させることが可能になりました。
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街の変容を絶えず観察し、恵比寿の街づくりを考えてきた不動産事業者と、公共空間の当たり前を問いながら新たな公園のデザインを手がけた設計者たち。両者が真摯に公募内容を受け止め考案した小さな「ネットワーク型公園」の誕生の背景には、多様性を促す受け皿と、利用者のつながりを外にも広げていく導線作りという幅広い観点があったようです。
続く後編では、地域に愛されながらも新しい公園のあり方を体現するチャレンジ、そしてこれからの公共空間のかたちについて伺います。