恵比寿Thinking Cap #2

<センタープラザ>リニューアルに見る、実店舗の新たな可能性【前編】

November 7th,2022
恵比寿のランドマークとして1994年に開業した恵比寿ガーデンプレイス。
開業30周年を前に、新たなメインターゲットを「ライフクリエイターズ(日々を自分らしく楽しみながら恵比寿のまちに暮らす・働く・訪れる人)」と定義し、その方々が集い、ゆるやかに交流する拠点「ライフクリエイターズ・リビング」をコンセプトに掲げ、大規模なリニューアルを進めています。

新たなステージへと動き出すなか、来る11月8日、商業の中心となる「センタープラザ」の全フロアがついにオープンします。地下2階から2階に全26店舗のテナントと、新しい働き方を提案するオフィスエリアが集まり、店舗やオフィスを構える企業同士が共創しながら、恵比寿の街に新しい価値をもたらすことが期待されています。

オープンに先立ち、1階に新業態店舗を出店する3社に集まっていただきました。コロナ禍によって生活者の意識とニーズが変化するなか、新業態店舗を展開する企業は、恵比寿ガーデンプレイスの新しいコンセプト、そして恵比寿という街をどのように捉えたのでしょうか。また、空間に対する解釈を新たな店舗の開発にどのように繋げていったのでしょうか。前編では、恵比寿ガーデンプレイスで挑む新業態店舗開発の考え方をお伺いしながら、複合施設におけるこれからの実店舗のあり方と可能性を紐解いていきます。

<プロフィール>

DCM株式会社(DCM DIY Place)
清家 茂
DX戦略統括部長 兼 新規事業開発部長

株式会社ゴールドウイン(PLAY EARTH KIDS)
小坂 琢磨
PLAY EARTH事業部マーケティンググループ、PLAY EARTH KIDSショップディレクション担当

プラス株式会社(ouchi GARAGE)
稲木 研二
ファニチャーカンパニー DI本部 eセールス事業部 事業部長

Text & Edit : Atsumi Nakazato          Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)          Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Nakazato
Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)
Edit & Design : BAUM LTD.

恵比寿の街、そして恵比寿ガーデンプレイスを再解釈する

今回出店するにあたり、恵比寿という街や、暮らす・働く・遊ぶが融合する“すごしかた”という恵比寿ガーデンプレイスの新たなコンセプトをどのように捉えましたか?

清家 私たちDCMは、全国でホームセンターを運営しています。郊外型の店舗を中心に展開しているのですが、首都圏でもDCMという社名の認知度を高めたいという思いが今回の出店の発端にありました。出店にあたっては、商圏調査を行い、恵比寿の街に住む人たちがどんな暮らしをしているのかを徹底的に調べました。

その結果、「自分の手で自分の暮らしを良いものにしていきたい」「自分らしい暮らしを自分の手でつくりたい」と考え、実践されている方が、私たちが想像していたよりもはるかに多いことがわかりました。そこから、忙しいなかでも日々の暮らしや自分らしさを大切にされている方が多い街だと捉え、そんな恵比寿にフィットするお店を考えていきました。

また、テレワークの普及によって自宅で過ごす時間が増え、住まいの環境をより良くしたいというニーズが高まっていると感じています。私たちはより自分らしい生活を送ることが“すごしかた”というコンセプトだと理解し、自分らしい住まいの環境を実現するためのアイデアと体験を提供することを店舗のテーマとしました。

DCM株式会社 清家 茂さん

小坂 ゴールドウインは今回3店舗同時出店で、センタープラザの中で最大の面積を占めることになります。だからこそ、僕たちが出店店舗として、恵比寿の街と共創するハブの役割を担っていくことは、当初からテーマとして掲げていました。

恵比寿には公園や緑が多くて子育てしやすい環境があり、住んでいる方も渋谷や原宿のように生活に刺激を求めるというよりは、落ち着いた住環境を好む人たちが多い。そう考えると、恵比寿は「日常とどれだけシームレスであるか」が求められる場所だなとすごく感じました。

子どもたちの遊びのサポートを目指す「PLAY EARTH KIDS」では、オンラインの時代に子どもたちをいかに外に連れ出せるかが重要なミッションだと捉えています。その点、恵比寿は周辺の環境がすごく整っているので、子どもたちが想像力を働かせる上で絶好のエリアだと感じています。

株式会社ゴールドウイン 小坂 琢磨さん(写真右)

稲木 プラスが恵比寿ガーデンプレイスへの出店を検討するなかで、とても共感し、魅力を感じたのが、恵比寿に集う多様な人や企業が集まる共創の拠点を目指しているところでした。私たちは今回、1階にワーク&ライフスタイルショップ「ouchi GARAGE(おうちガラージ)」を出店するだけでなく、地下1階にワークスタイルショップ&ショールーム「Creatore with PLUS(クリアトーレ ウイズ プラス)」、2階にはライブオフィス&クリエイションスペース「PLUS DESIGN CROSS」と、3フロアにわたってショップ、ショールーム、オフィスを展開します。

なかでも、2階のオフィスは特に共創が生まれることを意識して、サロンという大きな広場をつくり、ここで出会う皆さんとともに、イベントやワークショップを行っていく予定です。“すごしかた”を創造するというテーマの中では、働くという視点からアプローチすることが私たちの役割だと捉え、共創の一端を担っていきたいと思います。

プラス株式会社 稲木 研二さん

インスピレーションを得る空間としての店舗

来訪者にとってどのような場所になることを期待して、新業態店舗を企画されましたか?既存店舗との違いはどこにあるのでしょうか。

清家 「DCM DIY Place」では、商品というハードウエアだけでなく、アイデア、気づき、体験といったソフトウェアを提供することを特に重視しています。例えば、壁に棚を取りつけるとして、棚板や棚受けだけならECで買えますし、実際に棚板が壁に付いている見本品も実店舗で現物を見ることができます。新店舗では、そこから一歩進んで、棚板を壁に「取りつける」体験をすることができます。実際に経験していただくことで、一人で作業できそうか、工具はどんなものがいるのか、どのくらいの時間でできるのかを肌で感じていただけます。

また、私たちはDIYについて「自分でできることは自分でやろう」という考え方のもとに行う活動の総称だと捉えています。そのため、住まいの補修や収納スペースの工夫といった住まいを快適にするための方法だけでなく、洗剤や掃除道具などの家庭用品・日用品もあわせて幅広くご提案します。私たちが日々使う家庭用品の中には、一部の人にしか知られていないけれど、実は使うと便利で手放せなくなるような隠れた名品もたくさんあります。このような、お客様が見たこと、触れたことのないような商品を紹介し、使い方の実演を行うこともこの店舗の役割だと思っています。

さらに、この店舗には、お客様が日常生活でやりたいことや困っていることをお聞きし、最適な答えを一緒に考えるコンシェルジュというポジションをDCMとして初めて置いています。さまざまな角度から、暮らしにプラスになるようなインスピレーションを得られる場を目指しているところが、既存店舗との大きな違いです。

DCM DIY place 店舗外観

小坂 PLAY EARTH KIDSは、「地球と遊ぶ、地球で遊ぶ」というコンセプトをどう店舗で体現し、お客様に体験していただくかに重きを置いています。そのため、衣類などのモノを通した提案だけでなく、子どもたちに遊びを提案できるスタッフが常駐するところが、既存店舗と大きく異なります。ふらっと寄っていただき、ご希望に合わせて恵比寿界隈の遊び場を紹介できるようなスタッフの育成をしていきたいと考えています。

「地球と遊ぶ」という考え方は、それほど壮大なことではなくて、僕たちの身の回りにも自然はたくさんあると思うんです。例えば、知らなかった虫や植物を見つける、そんな身近にあるものに感性を働かせる体験から地球や自然を感じるコンテンツを提供していきたいと思っています。恵比寿ガーデンプレイスには、緑豊かな恵比寿ガーデンファームやサッポロ広場があって、身近な自然を楽しんでいただくのに最適な環境です。

PLAY EARTH KIDS 店舗外観

また、店内には「アドベンチャーデスク」を設置し、遊びを通じて自然や環境との新しい関わりを生み出す「地球と遊ぶ」コンセプトのもと、日本が世界に誇る国立公園をフィールドとしたさまざまなアクティビティを提供します。恵比寿周辺での身近な体験と、ツアーでの非日常の体験、その両極端を提案し、視点を変えることで得られるコントラストを大事にしながら、あらゆる体験と子どもたちをつなぐハブになっていきたいですね。 

もう一つ、PLAY EARTH KIDSは、お客様から買い取ったキッズ製品をリペアし、工場で生産する過程で出る残反などを組み合わせてカスタマイズして再販売するプロジェクト「GREEN BATON」の初の販売店舗になります。お客様のものへの愛情を新しい価値に変えて循環させることが僕たちの大事にしたいコンセプトで、既製品とは違う、一点ものを手にする喜びを伝えていきたいと思っています。

PLAY EARTH KIDS 店内

稲木 これまで、オフィス家具は自ら選ぶものというより、与えられるものだったと思うんです。そんな中、コロナ禍で在宅ワークが始まり、多くの人が働く上で必要なものに気づき始めています。そのため、これからのオフィス家具は、与えられたものを使うのではなく、「欲したものをどう体験していただくか」が重要だと思っています。

私たちプラスにとって、企業ではなく一般のお客様をターゲットとしたオフィス家具の実店舗を出店するのは今回が初めてです。ouchi GARAGEでは、在宅ワークをキーワードに「はたらくをたのしく」という切り口で、ワーク&ライフスタイルショップという新たな店舗のあり方を提案します。やっぱり生活が豊かでないと仕事も豊かでないし、その逆も然りだと思うんです。暮らすと働くがつながり、日々の過ごし方が心地よいものになるようサポートしていきます。

また、お客様に寄り添う世話役のようなスタッフを置き、“超・人介在型”を合言葉に店づくりを行うところも特徴です。「あの人と話すと暮らしや仕事が楽しくなりそう」と思っていただけるような、温かみのあるコミュニケーション力と専門性を備えたスタッフを育成し、お客様と近い距離感で対話ができる場を目指しています。

ouchi GARAGE 店舗外観
ouchi GARAGE 店内

変化の時代に実店舗が果たす役割とは

パンデミック、ECの普及により、店舗の必然性が下がっているといわれる中、実店舗だからこそ提供できる価値や可能性についてどのようにお考えですか?

清家 体験が実店舗の強みであることは間違いないですが、リアルの場で提供できる究極の価値は「人」だと思っています。DCM DIY Placeでは、通常この規模の店舗に置く倍以上のスタッフを配置し、人を全面に押し出した店づくりに取り組んでいきます。

DIYはすごく幅が広くて、例えば、収納スペースを広げたいというニーズに対して、収納ケースを買って重ねるだけでも良いし、自分で棚板を壁につけても良いし、スチールラックを手作りして見せる収納をつくってもいい。人の数だけアイデアや解決策があるんです。

お客様のニーズに対する絶対的な正解がない状況では、スタッフがお客様のニーズや生活環境を聞き、最適な解を一緒に探していくプロセスが欠かせません。それを繰り返すことで、お客様の店舗への信頼感や安心感が生まれます。これからのリアル店舗は、商品を売る場から、商品を通じてお客様の信頼を築く場へと役割がゆるやかに変わっていくのではないかと思います。

稲木 店舗のEC化が急速に進む中、リアルの場で提供すべき価値は、「モノ」の持つ意味を会話を通してしっかりと伝えていくことだと考えています。形あるものよりも体験が重視される時代にありますが、「コト」が溢れている今だからこそ、「モノ」が持つ価値を明確にしたいと思っています。オフィス家具とホーム家具の違いはどこにあるのか、なぜこの価格が設定されているのか。お客様に寄り添いながら、「モノ」が生まれた背景や考えをご理解いただき、お客様にとって適切な買い物をしていただくための場として大きな可能性を感じています。

小坂 近年、花火やボール遊びを禁止する公園が増えていて、子どもたちに開かれた場所が少なくなっていると感じています。もちろん会社として事業化することも大切ですが、僕たちにとっては、子どもたちとその親が共有し合える遊び場を提案することが、社会に対するメッセージでもあると捉えています。

「子どもを中心に考える」と口では言っても、本当にできていますか、豊かな自然を次世代に受け継いでいくことの大切さをちゃんと理解していますか。といったことを、僕たちはPLAY EARTH KIDSの運営を通して伝えたいです。やはり実店舗だからこそ、地球と子どもの未来を考える拠点として発信力を強く発揮できるのではないかと考えています。

***

ECの拡大やパンデミックにより、人々の消費行動が急速に変化する昨今。実店舗の在り方が模索されるなか、今回お話しをお伺いした3社の考えには、実店舗だからこその新しい可能性が鮮明に浮かび上がっています。各社がセンタープラザに出店する新業態店舗は業態も業種も異なりますが、場の在り方として、商品を買うための空間から、人を介して新たな気づきやアイデアを得る、インスピレーションを生む空間へと変容している点が共通しています。

後編では、実店舗の可能性を探るという前半と同様のテーマを扱いつつ、特に、「共創」という切り口からお話しをお伺いします。恵比寿という街にリアルな店舗を持つことで、どのようなコラボレーションの可能性が生まれるのか。また、そうしたコラボレーションの結果、どのような新しい暮らしのヒントが見えてくるのか。最終パートでは自由なアイデア出しも交えつつ、これらについて語っていただきます。

<センタープラザ>リニューアルに見る、実店舗の新たな可能性【後編】へ

Profile
清家茂
DCM株式会社
DX戦略統括部長 兼 新規事業開発部長

<DCM DIY Place>
「DIYによるくらし快適化」をサポートする体験型店舗。商品に触れ、実際に試し、使ってみることにより、暮らしの困りごとに対するソリューションサービスを展開。日々の暮らしを快適にするツールとアイデアを店内で表現し、「やってみたら、自分でできた」を応援するホスピタリティにあふれた体験型店舗を目指す。
小坂琢磨
株式会社ゴールドウイン
PLAY EARTH事業部マーケティンググループ、PLAY EARTH KIDSショップディレクション担当

<PLAY EARTH KIDS>
子ども、自然、遊びをテーマに、ゴールドウインが展開するキッズアイテムを横断的に扱う初のキッズエディトリアルショップ。遊びと自然を通して子どもたちが自ら知り、考え、つくり、使うことができるワークショップやイベントも開催。同社では、PLAY EARTH KIDSのほか、ザ・ノース・フェイス、ニュートラルワークス.の3ブランドを関東最大の売り場面積で展開する。
稲木研二
プラス株式会社
ファニチャーカンパニー DI本部 eセールス事業部 事業部長

<ouchi GARAGE (おうちガラージ)>
理想の在宅ワークスペースを提案する、プラスのインテリアブランド「Garage」の新業態ショップ。「はたらくをたのしく」をテーマに、暮らしがより豊かになる1万点以上のプロがセレクトしたアイテムからお客様の空間づくりをサポート。このほか、同社では地下1階に居心地良く最適な働き方の提案を行うワークスタイルショップ&ショールーム「クリアトーレ ウイズ プラス」、2階にはライブオフィス&クリエイションスペース「PLUS DESIGN CROSS」も展開する。
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