そこで今回は、恵比寿ガーデンプレイスに位置し、何十年という長い年月に渡って恵比寿の街の歴史を見続けてきたウェスティンホテル東京、ガストロノミー “ジョエル・ロブション”、 ロウリーズ・ザ・プライムリブ恵比寿からサービス業のプロフェッショナルに集まっていただき、時代の移り変わりとともに変化してきた3社のありようや、日々のホスピタリティに込められた想い、恵比寿の街とともに描いているこれからの未来について語っていただきました。
Text & Edit : Atsumi Mizuno Photo : Eri Masuda(Lucent) Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Mizuno
Photo : Eri Masuda(Lucent) Edit & Design : BAUM LTD.
それぞれの描くホスピタリティと心地よさとは
今回お集まりいただいたみなさまのレストランやホテルは、それぞれに歴史があると思うのですが、そういった歴史も遡りながら、これまでどのようなことを大切にしながら恵比寿ガーデンプレイスで運営されてきたのかを教えてください。
バルガモトフ 雅子(以下 バルガモトフ):ウェスティンホテル東京は、恵比寿ガーデンプレイスの始まりとともに、1994年に開業いたしました。今年は、来年に迎える開業30周年に向けて、開業以来初となる大規模なリノベーションを行いました。
私は1年前に沖縄から赴任したばかりで東京出身ではないのですが、「ビルばかりで忙しない土地」という東京に対してのイメージを恵比寿が変えてくれました。このあたりはすごく緑が多くてゆったりとしているなという印象で、それが私たちウェスティンホテル東京の掲げるウェルネスというコンセプトとも、とても合っているなと感じています。
ウェスティンホテル東京では、ウェルビーイングに力を入れておりまして、簡単に言うと、旅先でも我が家のように、 自分のライフスタイルを崩すことなく過し、ベストなコンディションでご滞在いただくことをコンセプトとしています。ウェスティンホテル東京はこれまでの歴史があるので、ラグジュアリーな印象がありますが、小さなお子さまからご年配の方までいろんなお客さまがいらっしゃるので、 それぞれのライフスタイルに合わせて丁寧にご対応できるようチームで力を合わせております。
プロフェッショナルな中にも、パーソナルなおもてなしをなくさず、「自分がお客さんだったら、こういうのを言われたら嬉しいな」とか、 「自分に子どもがいたら、こういうことを言われたり、案内されたら嬉しいだろうな」という情報をスタッフ間で共有しながら、接客に勤めています。
岡田 千奈(以下 岡田):私たちは、プライムリブを売りにしているアメリカンレストランで、赤坂から今の恵比寿に移転したのが2014年です。厚切りのローストビーフをお客さまの目の前でカットするサービスが特徴で、レストランではありますが、アメリカンスタイルだからこそのお客さまとの距離感や、 堅苦しすぎないフレンドリーさを大切にしています。
そのため、接客時に意識しているのは、定型文をあえて使わず、その時々のお客さまにあわせて会話を楽しむための時間にしようということ。リピーターの方や初めていらっしゃる方など、お客さまによって引き出しをいくつか持っておくと会話が広がるので、そういう引き出しを日々増やしていく努力をするように心がけています。
大郷 和(以下 大郷):私たちはウェスティンさん同様、1994年の恵比寿ガーデンプレイス開業と同時に、この地にお店をオープンいたしました。これまで、レストランの運営母体が変わったり、リニューアルしたりはしましたが、今の建物自体は恵比寿ガーデンプレイスとともに30年の歴史があり、働くスタッフも、30年を迎えるものが大勢います。
先ほどのロウリーズさんのお話にすごく近いと思うのですが、ジョエル・ロブション氏が存命の頃からずっと「コンビビアリテ(懇親性)」というコンセプトを掲げ、「親しみを持って、お客さまがリラックスしてお食事ができる空間や時間を提供していきましょう」ということを大切にしています。
ただ、私がいる20年の間にも、サービスの形はだいぶ変わってきたと思います。 昔はフランス料理というと、気品と格式の高さが価値だったと思いますが、それが時代と共に変化をして「カジュアルな心持ちで利用ができ、その中にエレガンスというものがきちんと存在している」という形に変わってきました。
お客さまのニーズが変わり、お料理のプレゼンテーションもどんどん変わってきているので、時代に沿って進化していくことが、今に繋がっています。たとえば、私たちのレストランではドレスコードを設けていますが、最近では高級ブランドでもデニム素材のお洋服を扱っていることもあるので、以前のように一律デニムは不可、といったことは時代に沿わなくなってきています。
御予約をいただくときに、サンダルやショートパンツでのご入店はご遠慮くださいとお知らせしていますが、それ以外はご自身が心地よく、周りにいらっしゃるお客さまにも違和感を与えないようなお洋服であれば構いませんというスタイルに変わってきています。
サービスを通したお客さまとの出会いとご縁
バルガモトフ:「やっぱりここがいいんだよね」「ちょっとほっとするんだよね、ここに帰ってきたら」というような言葉をいただいた時は、やはり嬉しいですね。私たちも、できるだけお客さまのお顔とお名前を覚えるように努めていますし、逆にお客さまも私たちのことを覚えてくださって、「今日、誰々さんいる?」と聞いてくださったり、「今日のケーキ、何?」といったような気軽な会話をしてくださるのが、とても嬉しいです。
岡田:ロウリーズは常連さんも多く、毎月いらっしゃる方や、毎年記念日にいらっしゃって、決まったメニューを召し上がる方もいます。すごく印象に残っているのが、裏メニューにある1380グラムの超特大のお肉を1人で召し上がる80歳くらいの年配の男性です。
初めてお会いしたのは6年前ぐらいだと思いますが、「毎年ここで、絶対誕生日の付近にこのお肉を食べる。これが1人で食べきれるうちは、元気な証拠!」とおっしゃっていて。毎回完食して帰られるので、元気をもらっています(笑)。
そうやってロウリーズに来ることが、誰かのイベントごとの1つになっているのがすごく嬉しいですし、常連の方の記録は毎回できれば残して、別の人が担当しても同じサービスが提供できるようにしているので、リピーターさんならではの会話ができるのも、すごくいいなと思っています。反対に、お客さまから「今日その格好なんだ」とか、「髪色変えたね」と気づいて声をかけていただいたり、街でふと遭遇したときに「いつものお礼に一杯奢るよ」なんて言っていただけるのも、とても嬉しいです。
大郷:冬の季節は毎年、恵比寿ガーデンプレイスの広場にシャンデリアが飾られていますよね。それを見ながらロブションでお食事するのをイベントにされているお客さまがたくさんいらっしゃいますが、なかでもレストラン3階の個室で、シャンデリアが見えるように2人で横に並んでお食事をされるご夫婦が毎冬いらっしゃるんです。
そういうことはあの場所ならではだなと思いますし、 思い出としてお客さまの心に刻まれているということなんだなと実感しています。
大郷:あとはやはり、プロポーズをされる場所として選んでいただくこともとても多くて、2階のダイニングですと、一晩に何回かのプロポーズが行われることもあるんです。お客さまそれぞれ演出に対しての思いがあるので、くまなくお聞きして、全力でサポートできるように心がけています。
岡田:私たちのお店でも、プロポーズをされる方たちがいらっしゃって、メッセージプレートを提供させていただいたりすることがあるのですが、お客さまが喜んで泣いてしまって、私たちももらい泣きすることがあります(笑)
お店でプロポーズをされて、そこから毎年結婚記念日でいらっしゃっていた方が、ある日、お子さま連れの家族でいらっしゃったり、4、5歳ぐらいだったお子さまが、 もうすぐ高校生になるということもあったりして、お客さまと一緒に物語を見られるというのもいいなと思っています。
バルガモトフ:ホテルでプロポーズされる方はもちろんですが、チャペルで挙式をしてくださって、「20数年前に挙げたんですよ」というお客さまもいらっしゃいます。ケーキやタオルアートなど、特別な日を過ごしていただけるためにできるだけのサポートはさせていただいてますが、そういったお手伝いのご要望は、私たちも嬉しくなりますし、ポジティブなエネルギーが感じられるので、いつも元気をいただいています。
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時代の変化や足を運ぶお客さまに合わせて、常に最適のホスピタリティを模索し続けている三者三様の工夫や心がけ。恵比寿ガーデンプレイスの一角を担ってきた方々のプロとしての裏側を聞かせていただき、そういった心のこもったホスピタリティがあるからこそ、恵比寿ガーデンプレイスへ親しみやワクワクを抱いて訪れる方がたくさんいらっしゃるのかもしれないと感じました。
後編では、恵比寿の街に根付くということ、そこで目指している姿や、どのようにホスピタリティの向上を日々目指しているのかといったお話をお聞きします。