恵比寿Thinking Cap #8

大好きな恵比寿のまちで、大好きなビールをつくる。そんな非日常の体験がもっとまちを深く知るきっかけに【前編】

November 29th,2024
8回目となるThinking Capでは、2024年に恵比寿ガーデンプレイス30周年記念イベントとして開催された「みんなでつくるビールプロジェクト from YEBISU BREWERY TOKYO」にフォーカス。こちらは恵比寿のまちと人とで30周年記念ビールをつくり上げる大型プロジェクトで、今年4月に開催された恵比寿ガーデンプレイスのワーカーを中心としたメンバーとのホップ栽培体験実施に始まり、コンセプトづくり、ホップ収穫や醸造体験、デザイン投票などといった数回のワークショップを経てオリジナルビールを完成させるというものでした。そして、10月8日にはお披露目&乾杯イベントも開催されました。 前編ではビールプロジェクトの全体像を振り返り、後編では主催者や参加者のみなさんにお集まりいただき、開催の意図や意義、参加者がどのような気づきやひらめきを得ることができたのかを伺います。
Text :  Izumi Kohno    Photo : Ukyo Koreeda     Edit & Design : BAUM LTD.
Text :
Izumi Kohno
Photo : Ukyo Koreeda
Edit & Design : BAUM LTD.

恵比寿ガーデンプレイスが2024年に開業30周年を迎えたことを記念し、「みんなでつくるビールプロジェクトfrom YEBISU BREWERY TOKYO」が実施されました。6か月にわたるプロジェクトの道のりには、笑顔と発見、そして街への愛があふれていました。恵比寿ガーデンプレイスの地には、かつてビール工場がありました。1890年に今日のヱビスビールのルーツである「恵比寿ビール」が誕生して以来、約100年にわたり、この地でビール醸造が行われてきました。恵比寿ガーデンプレイス開業30周年という節目である2024年、醸造施設を伴うヱビスのブランド体験拠点「YEBISU BREWERY TOKYO」がオープン。この地でのビール醸造が約35年ぶりに再開したのです。今回のプロジェクトは、そこを舞台に繰り広げられました。

YEBISU BREWERY TOKYOに集まったプロジェクトメンバー

プロジェクトの始動:ホップ栽培から始まるストーリー

2024年4月17日、プロジェクトのキックオフイベントが開催されました。プロジェクトメンバーとして集まったのは、100名近い応募の中から抽選で当選した約30名の方々。恵比寿ガーデンプレイスで働く人を中心に、レジデンスに住む人などで構成されました。

キックオフイベントは、YEBISU BREWERY TOKYO限定の「ヱビス∞(インフィニティ)」で乾杯してスタート。今回のプロジェクトの成功を祈願しました。

続いて、YEBISU BREWERY TOKYOの醸造責任者の有友亮太さんによるレクチャーが行われました。有友さんは、ドイツに留学し「ブリューマスター」の資格を取得した、サッポロビールの期待の若手醸造家です。参加者は皆、真剣な表情で聞き入っていました。

雨の中、肥料撒きをするプロジェクトメンバー

4月24日には、JR恵比寿駅前でホップ栽培体験が行われました。ビールの主な原料であるホップの苗を参加者が直接植えるという体験は、多くの人にとって初めてのこと。普段はコンクリートジャングルの中で生活している人たちも、土に触れ、充実の表情でした。このホップの苗が成長し、やがてビールになる未来を想像すると、自然と笑みがこぼれます。

恵比寿駅で栽培されているホップ

恵比寿を表現する一杯を考える:コンセプトとスタイルの決定

5月15日、YEBISU GARDEN CAFÉで行われたワークショップでは、記念ビールのコンセプトとビアスタイルを決める議論が繰り広げられました。「恵比寿ガーデンプレイスで楽しかったこと」、「恵比寿ガーデンプレイス30周年に相応しいってどんなもの?」、「忘れられないビールの思い出」、「こんなビールが好きだ」の4つのテーマについて話し合いが行われ、「恵比寿ガーデンプレイス30周年記念ビール」で表現したいことが徐々に明確になっていきます。議論の末に導き出されたキーワードは、「ずるい」「めでたい」「ゆるい」「いとおしい」でした。

30周年記念ビールで表現したいことについて発表する参加者の皆さん

ラベルデザインとキャッチコピー:ビールを視覚と言葉で表現する

6月12日、ラベルデザインのワークショップが開催されました。参加者が事前に撮影した恵比寿ガーデンプレイスの写真を使用して、記念ビールにふさわしいラベルデザインが検討されました。写真にタイトルをつける作業を通じて、ビールの個性を視覚的に表現する難しさと楽しさを体験することになりました。

そしていよいよ、恵比寿ガーデンプレイス30周年記念ビールのネーミングが決定!「空とレンガと私の午後」と発表されました。

ラベルのデザイン候補の議論に白熱する参加者の皆さん

デザインについては、ワークショップで選ばれた写真をもとに3つの案ができあがり、恵比寿のまちの皆様に投票していただきました。1週間で600を超える投票となりました。

さらに、ビールのキャッチコピーを考えるワークショップを実施。参加者たちは自分の感じたままの言葉を自由に紡ぎ出し、それらを組み合わせてコピーを作成。「ただの飲み物ではなく、この街のストーリーを感じられる一杯」というイメージが形になっていきました。


ラベルのデザイン候補3案。
(左)恵比寿ガーデンプレイスのアーチと泡(ビールの泡が浮かび、心地よい午後の雰囲気を表現)
(中)恵比寿ガーデンプレイスの建築とフクロウ(恵比寿ガーデンプレイスのアーチにとまっているフクロウと広がる空を組み合わせて建築の魅力を表現)
(下)グラスと恵比寿ガーデンプレイスの並木道(外で気持ちよくヱビスビールを楽しむ光景を表現)

そうした中、JR恵比寿駅で育てている“恵比寿産”ホップは苗植えから早3か月、順調に育ちました。

JR恵比寿駅で青々と茂るホップ

醸造体験:恵比寿の香りを閉じ込める

9月18日、いよいよビールの醸造工程が始まりました。ビールの原材料である麦芽とホップについても知見を深めます。

サンプルを確認しながら原材料の違いについての説明

参加者たちはYEBISU BREWERY TOKYOで、麦汁をつくる仕込工程など実際の醸造プロセスの一部を体験。ゆっくりと、慎重に、麦芽を仕込釜に投入していきます。この後、数時間かけて麦汁ができ、ホップやビール酵母を入れて発酵させ、熟成させ、約1か月でビールが完成します。普段は見ることのできない仕込室に立ち入り、醸造の専門家の指導を受けながら作業する時間は、まさに特別なひととき。

「実際に釜の中に麦芽を入れ、これが自分たちの考えてきたビールになるのかと思うと感慨深かった」と語る参加者の表情には、期待と達成感があふれていました。

完成!ビールとともに街を祝う乾杯の瞬間

10月8日、恵比寿ガーデンプレイスの開業30周年記念日に、ついに完成したビール「空とレンガと私の午後」のお披露目イベントを開催しました。この日は、プロジェクトの参加者だけでなく、多くの地域住民や訪問者が集まり、街の未来を祝う乾杯が行われました。

完成したビール「空とレンガと私の午後」は、アロマホップ「ハラタウトラディション(一部使用)」のトラディショナルな苦味と香りから、白ワインのように香る「ハラタウブラン(一部使用)」の繊細で華やかな香りが、シームレスに切り替わる、恵比寿ガーデンプレイスで過ごす、ゆったりとした午後のひと時にぴったりの味わいです。



街とともに生まれる新たな価値

このプロジェクトは、たんなる記念イベントに留まらず、街と人々の絆を深め、新しいコミュニティを築く場となりました。プロジェクトの物語は、これで終わりではありません。この経験を通じて生まれたつながりや発見が、恵比寿という街のさらなる未来を紡ぐ糸となっていくことでしょう。

次回の後編では、プロジェクト参加者による座談会の様子をお届けします。彼らが語るプロジェクトの裏側と、ビールを通じて見つけた街の新たな一面に、ぜひご期待ください。

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