恵比寿Thinking Cap #1

公園を再定義する。街の結節点をつくる挑戦【後編】

August 5th,2022
「恵比寿ガーデンプレイス」の隣に位置し、地域の人たちに長く親しまれてきた「恵比寿南一公園」。この小さな街のよりどころが、2022年9月1日、渋谷区では北谷公園に続いて2例目となるPark-PFI制度※を活用した公園として、リニューアルオープンします。

このプロジェクトを統括するのは、100年以上にわたり恵比寿の街で事業を行ってきたサッポログループの一つ、サッポロ不動産開発株式会社。1994年、恵比寿工場の跡地に複合都市のパイオニアとして、恵比寿ガーデンプレイスを開発し、ハード・ソフトの両面から街の魅力を高める取り組みを行ってきました。そして今、恵比寿ガーデンプレイスでは一大リニューアルが進行中。恵比寿の街は大きく変化しようとしています。

そんな過渡期にある恵比寿の街にふさわしい公園の形とはなんだろう。これまでの公園のあり方を問い直し、導き出された答えが、子どもたちが自由に遊び、チャレンジできる「プレーパーク」を中心にしながらも、子どもだけでなく、多様な人々が集い、街と人がつながりを広げていく「ネットワーク型」の公園でした。

地域の人たちに愛されてきた記憶を引き継ぎながら、さらに場の魅力を高めていくプロセスにおいて、どのような工夫やアイデアが生まれたのでしょうか。前編のプロジェクトのコンセプトや具体的なプランの振り返りに続き、後編では企画・運営を担うサッポロ不動産開発株式会社の高木顕一郎さんと、企画から公園全体の設計・監理までを担当したUDS株式会社の関谷明洋さん、小泉智史さんに、新しい公園のあり方を体現するチャレンジ、そしてこれからの公園の役割についての考えを伺いました。

※都市公園の魅力と利便性の向上を図るために、公園の整備を行う民間事業者を公募により選定する制度。都市公園に民間の資金やノウハウを活用した新たな整備・管理手法として注目されている。
Text & Edit : Atsumi Nakazato          Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)          Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Nakazato
Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)
Edit & Design : BAUM LTD.

新しい公園のあり方を体現する前例のないチャレンジ。小さな公園も特色を持つ時代へ

UDSさんは、これまでにキッザニア東京やコサイエ(アフタースクール/科学教室)など、子どもの主体性を育む場の企画・設計を数多く手がけてこられましたが、今回のような公共空間の企画ならではの工夫やアイデアについて教えてください。

関谷 公共空間は「誰もが自由に利用できる」ことがカギとなるので、プレーパーク、交流施設、屋外多目的スペースといったエリアごとの明確な境界線はつくらず、“なんとなくそれぞれのエリアを感じさせる”ことを公園の配置計画では重視しました。

そこで、公園のちょうど中心部に、子どもが遊べるスペースでありながら、領域をゆるやかに分ける役割も担う大きな築山を計画ました。「ゆるい境界線をつくる」というのは公共空間ならではだと思います。

公募の応募時に作成した築山部分の公園断面スケッチ。築山の高低差によって緩やかにエリアが分けられている。

交流施設は、公園内の施設としてふさわしい建物となることを特に意識し、外壁に園内の木々や植物、土と調和するような色味や風合いのある素材を採用しています。建設工事が着々と進み、完成に近づいていますが、建物が周辺の環境とうまく馴染んでいて、予定通りの仕上がりになっています。

小泉 運営に関して言うと、今までは“みんなのため”と言って、声の大きい人があれこれ禁止する公園が多かったと思うんです。でも、プレーパークには「子どもが自由な発想により自分の責任で自由に遊ぶ」という基本理念があり、設けられたルールの中で自由に遊ぶことを大事にされています。恵比寿南一公園ではプレーパークを含めた公園全体を、その方針にならって運営していくところが、従来の公園とは違う新しさと言えるかもしれません。

「禁止しない」という考え方は、ターゲットを限定しながらも、それ以外の人たちを排除しないという、これからの公共空間のあり方にもつながってきます。一つの公園ですべてのニーズを満たすことは難しい都市においては、公園ごとに役割を分担させて、それぞれがしっかりとその役割を担っていくことが、新しい公共の形になるのではないでしょうか。

国内外のプレーパークの事例を見ると、事業者が設計するというより、地域の人たちが自ら場をつくっているようなイメージがあります。今回あえて“プレーパークをつくる”ことに難しさはありましたか?

小泉 実際に、渋谷はるのおがわプレーパークを見に行くと、利用者のみなさんが自分たちで場をつくっているのが見えるんですが、それを設計として描こうと思うとすごく難しくて。新しいものを付け足さないとリニューアルしたように見えないんですけど、プレーパークというのは、プレーリーダーの方々や子どもたちが遊びながら自由に手を加えていくことを前提に、何もつくらないことを許容されるんです。

どんどん引き算して、残すものを選んでいくというプロセスは、私たちにとって新しいチャレンジであると同時に、すごく難しかったところでもあります。そこをうまく調整するためには、関係者の方々とコミュニケーションを重ねるしかないんです。

そこで、高木さんに間に入っていただきながら、プレーパークの運営をお願いする「渋谷の遊びを考える会」の方々と何度も話をさせていただき、時間をかけて、できることとできないことの線引きをしていきました。

新しい公園のあり方を模索し、プランをつくり上げる過程では、どのようなご苦労がありましたか?

関谷 プレーパークとドッグカフェという、前例のない掛け合わせのプランだったので、参考事例がほとんどなかったんです。小さな規模感では渋谷区の公園で初めて「Park-PFI制度」が活用された北谷公園、プレーパークでは渋谷はるのおがわプレーパークをよく観察しながら、うまく組み合わせていきましたね。

小泉 それぞれの参考事例はあったんですが、それらを組み合わせた事例はなかったので、そこは苦労したところです。

高木 この公園は、住民の方々に愛着を持たれていたこともあって、残してほしい景観や機能が公募の段階からある程度決まっていたんです。通常のリニューアルに比べると、制約のある中で何をどこまでできるかを調整するのはやはり難しかったですね。

また、ゴミの不法投棄や違法駐輪、遊具の老朽化など目に見えた課題がない公園だったので、リニューアルの考え方や具体的なプランについて、地域の方々や町会長さんに話をしに行ったり、町会の会合で説明させてもらったりしました。

関谷 企画の段階から、住民の方々の意見をできるだけ尊重したいという思いは、サッポロさんの中ですごく強いなと感じていました。Park-PFI制度を活用したプロジェクトで、地元に根ざした企業が住民の方々と対話をしながら進めていく事例って、あまりないと思うんです。サッポロさんは恵比寿の街を地盤として事業をされているので、すでに町会の方々と関係性があって。公園をつくる中で、その関係性をさらに深めていく感じがありましたよね。

小泉 地場で事業をされていることに対する住民の方々の信頼感が、そこにあると思います。急に外からやってきた企業が開発するのとはちょっと違うスタンスですよね。北谷公園は商業エリアの中にありますが、この公園は住宅地が隣接しているので、住民の数だけ思いがある。直接住民の方と対話されている高木さんは大変だったと思うんですが、そこをうまく調整いただいたことは、今後のこの公園を中心としたコミュニティーの糧になっていくだろうと思っています。

高木 恵比寿の街に根付き、ともに成長していくことが私たちの姿勢であり、これまで培ってきた信頼があるからこそ、今この街で事業が継続できていると思うんです。その信頼を未来につなげていくためにも、地域に寄り添い、誠実な対応を積み重ねたかった、その一心でしたね。

「ターゲットを絞る」ことで、多くの人に選ばれる公共空間になる

このプロジェクトを通して、これから都市の中で公園が果たす役割とその可能性について、何か見えてきたことはありますか?

小泉 遊び場が不足していた高度経済成長期に、250mの範囲内に一つ、住民が利用するための街区公園を設けた時代がありました。その時代を経て公園の数が確保できてきた現状を考えると、今後はそれぞれの公園が特徴を持つ必要があると思うんです。

恵比寿南一公園のように特色を持った公園がどんどん増えることで、小さな街区公園であっても、選ばれる公園になり、多様で豊かな公園のネットワークが生まれる。そんなことが、都市の中ではあり得るんじゃないかなと。そのパイオニア的な存在に、恵比寿南一公園がなれるといいなと思っています。

関谷 たしかに、特に多様な人が集まる都心部では、公園の役割がエリアごとに変わってきているのかなと感じています。それぞれの公園が担うべき役割を改めて考え、新たな目的をつくっていくことがこれからの公園空間で大切になってきそうですね。

小泉 これまでは公園=子どもが遊ぶ空間でしたが、もう少しターゲットを広げて、大人のための公園や高齢者のための公園があってもいいと思うんです。とは言っても、そのターゲットしか使えないのではなく、例えば、高齢者向けの公園だけど、そこに幼稚園が併設されていて、子どもと高齢者が日常的に関わりを持てるとか、多様な人たちをコネクトする工夫を提案していけると公共がもっと豊かになるんじゃないかなと。

社会のニーズが多様化する今の時代、商業が万人受けを狙うと勝ち残れないのと同じで、公共空間であっても、ターゲットを絞っていかないと多くの人に利用される場所にはならない。これから都市の公園は、そこを目指していきたいですよね。

高木 建物をつくればオフィスや店舗に入っていただける時代が終わりつつある今、屋内空間だけでなく、公園を含めた屋外空間が大きな価値を持ち始めていると感じています。つまり、魅力的な公園があることが、街が選ばれるきっかけの一つになりつつある。恵比寿南一公園についても、恵比寿ガーデンプレイスの屋外空間と役割を分担しながら、一体的な取り組みができると、恵比寿の未来につながる可能性はあるのかなと思います。

リニューアルを行うと、公園の名称もそれに合わせて変更されることが多いですが、恵比寿南一公園はリニューアル後もこの名前を継承されるそうですね。そこにも、地域に愛される場所であり続けることを願う、区や事業者のみなさんの思いが表れています。最後に、新たな恵比寿南一公園に期待することを教えてください。

関谷 この公園で遊んだ子どもたちが将来親になった時に、子どもと一緒に遊びに来て、恵比寿の街を同じように楽しんでほしいですね。僕も今親世代になって、子どもと公園に行くようになったんですが、公園で遊ぶのっていいなと改めて思うんです。楽しかった記憶を思い出して、また帰ってこられる場所になるといいですよね。

小泉 やっぱり小さい頃の思い出ってすごく大事だと思うので、思い出になるような場所をつくっていきたいです。子どもの頃ここで遊んだよねと、友だちと思い出して話ができるような子どもたちの記憶に残る場所になってほしいと思います。

高木 恵比寿南一公園のプレーパークがあるから遠方から遊びに来たとか、住む場所としてこの街を選んだとか、この公園の存在が恵比寿の街が選ばれるきっかけの一つになればいいなと思います。そして、ゆくゆくは、ここで遊んだお子さんたちが大きくなって、恵比寿の街にどんな形であれ戻ってきてくれることにつながると嬉しいですね。

***

人もモノも、さまざまな個性が広がる現代。公園に限らず、公共を構成するさまざまな要素がそれぞれに特徴を持ち、役割を分担し、つながり合うことこそがこれからの街に求められていることなのかもしれません。地域に馴染み、愛される場を目指しながら新しい公園のかたちを模索する本プロジェクト━。竣工後、どのような景色や想いが生まれていくのか楽しみです。

恵比寿南一公園 2022年9月竣工予定
Profile
高木顕一郎
サッポロ不動産開発株式会社 恵比寿事業本部 AM統括部

大学院修了後、防災まちづくりNPOで約3年間エリアマネジメント業務を現場運営含め経験。その後、総合建設コンサルタントにて、約5年間都市計画関係業務に従事し、少しのモラトリアム期間を経て現職へ。まちづくりビジョンの検討から施設内の農園管理まで、まちづくりと名の付く業務を幅広く担当中。
関谷明洋
UDS株式会社 COMPATH ゼネラルマネージャー

2019年4月にUDS株式会社に入社。大学院修了後、建築設計事務所にて12年間設計業務を経験。その後、企画、設計、運営で一体となって行うまちづくりや空間づくりに魅力を感じ、UDS株式会社入社。建築・インテリアデザインに軸足を置きながら企画・運営にも入り、様々なプロジェクトを担当。
小泉智史
UDS株式会社 COMPATH ゼネラルマネージャー

2016年8月にUDS株式会社に入社。大学院修了後、ランドスケープの設計事務所で約9年間ランドスケープの設計に従事。その後、事業会社の社長室にて街づくりや会社の持つ資産を有効活用する事業スキームの提案等を経験。より多角的視野を持ちながらプロジェクトを進めることに魅力を感じ、現職へ。現在はランドスケープの統括として、国内外を問わず、UDSが関わる屋外空間を手がける。
More