ヱビスビール発祥の地である恵比寿で、訪れた人がその場で生まれたオリジナルヱビスを楽しみながら、ヱビスブランドならではの個性と歴史、物語に触れる“リアル体験”をつくりあげる企画が進められています。
1890年、日本麦酒醸造会社(現、サッポロビール株式会社)が、ヱビスビールのルーツである「恵比寿ビール」の製造・販売を開始し、やがて街や駅の名前の由来になるほど、地域に親しまれるようになったヱビス。その後、1988年の工場の移転に伴い、恵比寿の地における約100年におよぶビール製造が幕を下ろしてから35年を経た今年、恵比寿の地に再び「YEBISU BREWERY TOKYO」としてビール醸造が再開されることは、ヱビスビールにとっても、恵比寿という街や人にとっても、大きな意義のあることとなりそうです。
今回は、「YEBISU BREWERY TOKYO」の開業に先立って、ヱビスのブランドとしての思いとともに、ヱビスと街と人の三者をつなぐデジタルとリアル双方を活用したさまざまな取り組みの展望やヱビスと街との関わりについて、サッポロビール株式会社ブランドマーケティング担当の沖井尊子さんと、同社の商品開発担当の有友亮太さんにお話を伺いました。
<プロフィール>
サッポロビール株式会社
沖井尊子
マーケティング本部 ビール&RTD事業部 ヱビスブランドグループ ブランドマネージャー
サッポロビール株式会社
有友亮太
マーケティング本部 ビール&RTD事業部 ヱビスブランドグループ Chief Experience Brewer
Text & Edit : Atsumi Nakazato Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI) Edit & Design : BAUM LTD.
Text & Edit : Atsumi Nakazato
Photo : Yuka Ikenoya(YUKAI)
Edit & Design : BAUM LTD.
ヱビスの過去から未来までを味わえる拠点
「YEBISU BREWERY TOKYO」
最初に自己紹介を兼ねて、業務内容や活動内容を教えていただけますか?
沖井 私は商品のブランドマーケティングを行うビール&RTD事業部で、ヱビスのブランドマネージャーの仕事をしています。お客様にどうやってヱビスの良さを感じていただき、商品を手に取っていただけるかというところに取り組んでいます。
有友 私は商品・技術イノベーション部というビール等の酒類を開発している部署と、沖井さんの所属するビール&RTD事業部を兼務しています。基本的には、ヱビスブランドのビール開発にメインで取り組んでいて、加えて「YEBISU BREWERY TOKYO」で提供するビールの開発や体験設計を主導したり、製造関係の食品衛生などのサポートの役割を担ったりしています。
今お話に出てきた「YEBISU BREWERY TOKYO」は、ヱビスブランドをリアル体験できる場だとお伺いしているのですが、詳細を教えてください。
沖井 「YEBISU BREWERY TOKYO」は、ヱビスの過去、現在、未来がすべて体験できるようなリアル体験の場をつくることを目指しています。具体的なコンテンツはまだ検討中ですが、これまでのヱビスと街とのつながりや、ヱビスブランドの今までの取り組みに触れていただけるヒストリーのエリア。ビールが醸造されているところを間近で見ていただく現在のエリア。そして、生み出されたばかりのビールをお客様に飲んでいただきながら、今まで体験したことがなかったようなビールとの出会いを感じていただけるタップルームの未来のエリアの三つを備える予定です。
ヱビスビールは、今まさに恵比寿ガーデンプレイスがある場所で誕生したビールで、ヱビスビールの工場があったから、恵比寿という駅や街の名前になっていったという過去があるほど、街とは切っても切り離せないブランドであり、街と共に歩んできたブランドです。なので、「YEBISU BREWERY TOKYO」は、ヱビスの始まりとなった場所であらためてビール造りに取り組み、新しいビールをどんどん生み出していくような拠点にしていきたいと思っていますし、そこにお客様に来ていただいて、普段の家庭では味わえないようなビールとの幸せな時間を過ごしていただく場になればと思っています。
有友 今はヱビスの未来を考えるにあたって、どういうビールを醸造したらいいかを考えているところです。今までヱビスが取り組んでこなかったことに挑戦しながら、みなさんに驚き、喜んでもらえるようなものを造り出したいと思っています。私はビール醸造について学ぶためにドイツの醸造研究教育機関に留学していたことがあるのですが、その頃に飲んでおいしかったものなども参考に、どうすればよりビールを楽しんでもらえるのか、日々模索しているところです。
昔発売したビールを復刻してほしいという声をお客様からいただいたりもするので、そういうニーズがあることを踏まえた上で、新しい商品を開発していきたいですし、「こんなビールが飲んでみたかった、ビールって面白いな」と思っていただけるものを造っていけたら一番良いのではと思っています。
沖井 ブルワリーで造ったビールをお客様にその場で飲んでいただいて、直接表情や反応が見られるというのは、私たちにとって貴重なことだと思います。言葉にはなっていないけれど、こういうのが人気なんだな、こういう風に今思っているのかな? というお客様の様子をリアルに見られるというのは、「YEBISU BREWERY TOKYO」が恵比寿という場所にできることの意義になるような気がしています。
有友 造り手としては、直接お客様の反応が見られるのは嬉しいところですね。どんな反応であっても、次のビール造りに生かせますから。
今までにないビールのおいしさと楽しさを追求し、伝えていく
沖井 「YEBISU BREWERY TOKYO」は、新しいビールを生み出すとともに、新たなビールの楽しみ方やおいしさと出会っていただく場にしたいです。「ビールといえば、のどごし」というように、ビールに対する固定のイメージは根強いものがあるのですが、ヱビスファンのみなさんは知的好奇心の強い方がとても多いので、「こういうおいしさのビールもあるんだ」「こんな楽しみ方もあるんだ」という出会いも含めて楽しんでいただけるような新しいご提案ができればいいですね。ヱビスビールは100年続くブランドなので、昔から変わらないというイメージもありますが、100年培ってきている技術や知見に、お客様からいただくご意見が合わさるからこそできることもあると思うので、今までの積み重ねをしっかりと強みにしながら、新しいおいしさ、楽しさを常に探究していきたいです。
今では、ヱビスビールは全国どこでも売らせていただいていますし、いろんな土地にある弊社の工場で造っています。ですが、始まりとなった恵比寿の街で再びビール造りに取り組むことは、会社としての長年の悲願でもありますし、初心を忘れずに、ビールのおいしさや楽しさを追求し続けていくことは、ヱビスブランドのルーツでもあり、大事にしなければいけないことだと考えているので、 この恵比寿という街であらためてそこに取り組んでいけるのは、とても意味のあることだと思っています。
有友 私自身、恵比寿の飲食店の方々とお話するなかで、恵比寿という土地にビールがあることは、すごく前向きに受け止めていただいていると感じていますし、だからこそ、ブルワリーができてからも、裏切らないものづくりや発信、私自身の対応も考えていかないといけないなと身が引き締まるところです。
昔、ここにヱビスビールの工場があったときは、それこそビールの工場しかありませんでしたが、今では周囲にいろんな店舗も増え、共創しあって新しいビールの楽しみ方を生み出すこともできるようになっています。そういった今の街だからこそのビールの楽しみ方もかなり増えていると思うので、「YEBISU BREWERY TOKYO」を通して、恵比寿という街で発展した現代のビールの楽しみ方の変化も私たちで伝えていきたいと思っています。
***
街や駅の名前の由来になるほど、恵比寿という土地に長いつながりを持ってきたヱビス。その始まりの場に、新しいビールが生み出され、人々が足を運び、楽しむ拠点ができるということは、恵比寿という街にとっても、新たな流れがつくられていく兆しのように感じます。後編では、街・人・ヱビスのさらなる接点をつくりだすための挑戦や、恵比寿という街の魅力についてお話を伺います。
(*後編は4月28日頃公開予定です)
「YEBISU BREWERY TOKYO」
住所:東京都渋谷区恵比寿4-20-1 恵比寿ガーデンプレイス内(現:ヱビスビール記念館)
※ヱビスビール記念館は2022年10月末から休館中。
開業:2023年末予定